Create Your First Project
Start adding your projects to your portfolio. Click on "Manage Projects" to get started
殺されなかった天使Ⅰ
プロジェクトタイプ
Installation
日付
2023年
場所
貸民家プライベイト
展覧会
家・家族・故郷の生態系とお土産のポータル
年始に1センチ程度の膵嚢胞が見つかった。おおむね良性の分枝型IPMNで、出現原因は不明だ。おそらくこの数年で後天的に現れたもので、経過観察以外に出来ることは特にない、ということだった。
MRIの写真を眺めているうちに、その不可思議な存在に親近感が生まれ始めた。
良い物でも悪い物でもないまま、ただ事実として私の体内で、黙って丸く白く光っている。
これが外的要因でもたらされたのだとしたら--つまり、いわゆるストレスが原因であるなら--変な話だが、嬉しかった。私の身に起きた出来事において、他者からは見えない私の被害者性のようなものの数々が、なかったことにならないよう、形を与えられたように感じたのである。
しかし将来的に膵癌を発症する確率が人よりも高いらしいので、悠長なことばかりも言っていられない。何の前触れもなく下された大病を患う可能性について憂うと、むしろその理不尽さの原因を、自分の中に積極的に探してしまう。
例えば、私の被害者意識は、突き詰めるほどに加害性と表裏一体であるはずだと感じられる。他者の領土に対する侵犯的行為や言動は、誰もが犯し得るのだ。被害者性の輪郭を確かめるほどに、わざわざ自らの加害性をも摘示しているような気持ちに見舞われる。
そんな両義性を並べ、やっと腑に落ちたような、地に足がついたような、不思議な安心感を得られるのだった。
私の体内の膵嚢胞が、私の身に起きたことの結実であるなら、私の身体の延長のようなこの家に、今まで作り付けられてきた作品群は、膵嚢胞によく似ている。
貸民家プライベイトにおいて、利用者の作品は他者と確かに関わったということの証である。他者に使い込まれるほどに傷み続けるという物理的制約がある以上、家にとって作品とは、単純に肯定できない外的ストレスであった。
またそれと同時に、利用者にはずいぶん不自由な思いをさせてきた。プライベイトは一見安価な展示スペースに見せかけながら、実は私の個人宅そのものなのである。利用方法はその時々の私の私情で異なる。部外者としてこの家を使うという体験は、常になんともいえない不気味さが付き纏っていたに違いない。
そして、私は、そうした利用者との奇妙な時間の共有も含め、ますますこの家に愛着を感じてきたのだった。
私の体内の膵嚢胞は、私に通過した時間を肯定も否定もせず、しかし決してなかったことにはならないよう、もたらされた何かである。天使がいるならかくあるべきと、そう思う。
膵嚢胞が生まれる過程のような時間がこの家でも流れていたのであれば、私はそれを確かめ、受け入れるためのオブジェとして、天使の羽を用意したい。

